地位が上の人ほどハードに働くものだ。

空我です、ジョブズは語りかける。
アップルが勝つために、マイクロソフトは負けなければならないという考えを捨てよう。
軍門にくだったアップル。
そんな報道が目立ったが、実際にはマイクロソフトを後ろ盾に経営不安が和 らぎ、巻き返し策を練る余裕が生まれた。
名より実をとったといえる。
飛躍への切符は01年に初代を出したiPodだった。
世界的ヒットはシンプルなデザインと操作性だけでは説明できない。
ジョブズはレコード大手をくどき、03年、音楽配信サービスを始める。
1曲99セントのバラ売りは、消費者に新たな音楽の楽しみ方をもたらした。
iPodはオタクアイテムではなくファッションアイテムになった。
アップル日本法人でトップを務めた前刀禎明は振り返る。
ジョブズは01年、もうひとつ布石を打った。
直営店の展開だ。
パソコンを無店舗販売する米デルが台頭するなか、無謀な試みとされたが、ジョブズはコンピューターの使い方を学べる場所にと押し切る。
IT大衆化の潮流 に乗り、顧客と密につながる貴重なルートに育った。
技術者としてはそれほどのレベルではなかったが、ソフト、機械、芸術、デザインと幅広い知識をもった希有な存在だった。
時代の流れを読むのが天才的にうまかった。
キヤノン元常務で、ネクスト時代を含め近いところで仕事をした酒巻久のジョブズ評だ。
もちろん、すべてをジョブズの功績にするのは乱暴だ。
地位が上の人ほどハードに働くものだ。
事業について細かく把握していた。
ITベンチャー、チカクの代表取締役で、99年から12年間、アップル日本法人で働いた梶原健司はそう証言する。